〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

『裸足の女 吉野せい』 山下多恵子 著


【『裸足の女 吉野せい』表紙】


『裸足の女 吉野せい』を読む -「啄木の息」管理者

  • 山下多恵子 著 未知谷 出版
  • 2008年 2,000円+税

詩人・三野混沌と結婚し、愛した文学を捨て、過酷な開墾生活に入った吉野せい。夫の死後70歳を過ぎ、筆を執りはじめた…。稀有な作家・吉野せいの軌跡をたどる。夫婦の姿を描いたシナリオも収録。

美しく辛い本。

福島県いわき市の地図ページがある。そこには吉野せいの年譜ともいえる書き込みがあり、年に従って辿れるようになっている。せいの選んでいく道が辛そうで辛そうで、読むのに苦しくなると表紙カバーを眺めた。黄緑の霞むバックに梨の花がふんわりと開いている。おしべの先の濃いめのピンクに花粉が溜まっている。
カメラマン・みやこうせいさんのやさしい目が見えるようだ。著者が、この本の出版時期を「梨の花が咲くのを待っていた。…待った甲斐があった」と教えてくれた。


せいは言う。「自分は今、家庭を破壊したく思ふ。自分は自分一人の生活をして思ふさまうごいてゆきたく思ふ……どこか一人でくらしてみたくなつたよ……」家庭を持つとその保護力に安心するが、束縛に苦しむ。石川啄木も同じようなことを繰り返し思い言葉にしている。
せいは、生活力のない夫と6人の子の命を背負い、畑をはいずり回る。貧しさのため生後八ヶ月の次女梨花を亡くす。1970年に夫が亡くなってから、初めて深呼吸するように文を書き始めた。
つい先頃どこかでも聞いた言葉。「夫が亡くなってから誰に断らなくても勉強ができる」。そんな女性の立場が哀しい。

第2部は、著者・山下多恵子さんがせいに寄り添い、心の動きを探ったシナリオ。
山下さんは『忘れな草 啄木の女性たち』の中でも啄木の妻節子を甦らせ語らせた。「そうだったんだ。…うん…うん…」私も読みながらその会話を脇で聞いているような気になった。