〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木の傑作とは何か 歌人・前川佐美雄が紹介

北海道函館市立待岬 啄木一族墓 「碑文」拓本

大の男も泣き崩れた? 人生の名人にして夭折の天才歌人石川啄木の心に染みる傑作!

 学術文庫&選書メチエ編集部

初の歌集『一握の砂』で名声を得た夭折の天才歌人石川啄木。彼の遺した「ローマ字日記」はあまりにも有名だ。借金や不倫、放蕩三昧の逸話も多い彼は、大逆事件を契機に社会主義に傾き、結核により26歳で亡くなった。

人生と生活に密着した彼の純粋な作風は、いまでも多くの読者に親しまれている。その歌は、一首を三行に分かち書きしたもので、一見すると、短歌に疎い人も読みやすく感じるかもしれない。そんな啄木の傑作とは何か。日本を代表する歌人・前川佐美雄が紹介する(以下では、『秀歌十二月』を引用する)。

・もっとも有名な啄木の歌

 東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹(かに)とたはむる

 (歌集・一握の砂)石川啄木

明治四十三年十二月刊行の歌集『一握の砂』の巻頭歌。有名な歌であるから知らぬ人とてなかろうけれど、函館市外の立待岬(たちまちみさき)にある墓碑に刻まれている。その「東海の小島の磯」は函館付近の海を心に置いて作ったのだろう、というのが定説になったからである。

これに反対しようとは思わぬし、それであって少しもさしつかえはないのだけれど、なおそこで作った歌だときめつけてしまうことに異存がある。啄木自身は何もいってはいないのだし、いっていないからこそかえって自由に読者はその「東海」を、「小島の磯」を思いえがいて、存分に歌の心にはいりうるのだから、よけいな穿鑿(せんさく)はせぬことだ。

啄木の真意にそむくなかれと注意を促したいが、中にはおうおう行きすぎがある。何でもないことに深い意味や事件の存在を考えたりして、純粋な鑑賞のさまたげをする。とくに啄木研究者と見られる人の中に多いが、心すべきではなかろうか。

・思ったままに言う
・悲しみを歌う啄木

(2023-05-18 講談社 > 学術文庫&選書メチエ)

 

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