【三山春秋】就職や結婚を機に遠方へ移り住んだ人に…
- 就職や結婚を機に遠方へ移り住んだ人にとって、ふるさとはきっと特別な場所に違いない。岩手県に生まれた石川啄木は〈かにかくに渋民村は恋しかり/おもひでの山/おもひでの川〉と詠んでいる。
- だが坂口安吾は違う。新潟市の文学碑に刻まれた言葉は「ふるさとは語ることなし」。もちろん本人が選んだわけではないが、無頼派の作家らしく郷愁を否定する潔さがいい。
- 安吾といえば、東京・蒲田安方町の自宅書斎で撮ったポートレートが有名だ。踏み場もないほど紙くずが散乱した書斎でペンを持ち、カメラをぎろりとにらんでいる。
- 部屋は2年間掃除をしておらず、床には布団が敷かれたまま。写真家の林忠彦は一目見てうなったらしい。
(2023-02-24 上毛新聞)