〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木の父としての心を詠んだ歌「/息きれし児の肌のぬくもり」

野花

ビブリオエッセー

青春の声が聞こえる 「新編 啄木歌集」久保田正文編(岩波文庫

  • この前の朝ドラは中原中也の詩がちょこっと出てきて懐かしかった。そこで青春時代に親しんだ詩集を探してみたが本箱には一冊も見当たらない。ああそうだ、昔の本はもう読むこともなかろうと処分したのだ。忘れていたが終活、失敗したかなと思い、久しぶりに書店へ行って詩集をあれこれ開き、この本を見つけた。啄木の代表的な歌集「一握の砂」「悲しき玩具」と、それ以外の多くの歌を載せている。
  • 魅せられたのが「一握の砂」の序文で、啄木を新聞歌壇の選者に抜擢した藪野椋十が書いていた。「定めしひねくれた歌」だろうと思って読むと「こりゃア面白い」とか、歌を引き合いに「そうじゃ、そんなことがある、こういうような想いは、俺にもある」と言葉遣いが幼なじみと文学論をかわしているような感じだ。
  • それだけでなく啄木の夫として、父としての心を詠んだ歌のいくつかは涙を誘う。特にわが子を亡くしたときの歌の数々。「かなしくも/夜明くるまでは残りゐぬ/息きれし児の肌のぬくもり」。啄木の歌は青春の賛歌であると同時に弱き者や貧しき者、されど誇りを失わない者たちへの賛歌なのだ。

    大阪府枚方市 伊勢谷孝子(77)

(2022-10-11 産経新聞

 

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