〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

「自分の人生の手綱を自分で握るために…」くどうれいん

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フヨウ

好書好日

くどうれいんさん『氷柱の声』インタビュー 「震災もの」ではない、若者の胸の内

 第165回芥川賞候補となった『氷柱(つらら)の声』(講談社)は、東日本大震災の発生時に盛岡の高校2年生だった主人公を軸に、岩手、宮城、福島にゆかりがある同世代の若者たちの内面を描く物語だ。作者のくどうれいんさんに、作品が生まれるまでの道程や書き上げた後の思いを聞いた。

  • 震災が起きたとき、くどうさんは岩手県立盛岡第三高校に通う1年生だった。物語の序盤で、美術部の主人公・伊智花(いちか)が「絆のメッセージ」を込めた絵を依頼されて悩む場面がある。文芸部員だった自身も当時、「希望の短歌」を求められ、内陸でほとんど被害がなかった私が何を言えるのか、と葛藤した。
  • 「つらい経験をした人に、つらいという内容を詠むのは違うし、〈前を向こうよ〉というメッセージを出せる立場でもないと思った。結局、自分のことを詠むしかなくて、身近な光景から詠みました」

〈おめはんど顔っこ上げてくなんしぇとアカシアの花天より降りけり〉

  • 「“おめはんど”は岩手の方言で、あなたたち、という意味。この作品に『救われました』というメッセージも多く頂いたんですが、この歌を詠んだことが被災地の方にとって、私にとって、良いことだったのかと毎年3月11日が巡ってくるたびに考えますね」


 石川啄木ゆかりの盛岡の地で生まれ育ち、仙台での大学生活を経て、再び盛岡で暮らしている。中学時代から俳句を、高校時代は文芸部で短歌や小説、詩、児童文学を手がけた。

 「社会が求める感動物語」に消費されないように、これからも自分の言葉を紡いでいく。「自分の人生の手綱を自分で握るために、書き続けていきたい」(佐々波幸子)

(2021-08-20 好書好日<朝日新聞

 

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