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夏目漱石「君の名を忘れたのではない かき違えたのだ」愛すべき文豪たちの斬新な言い訳
『すごい言い訳! 二股疑惑をかけられた龍之介、税を誤魔化そうとした漱石』
中川越 著 新潮社
- 漱石の話になるが、彼がハガキの宛名を間違えた際にはこんな言い訳を綴ったことも。
「君の名を忘れたのではない かき違えたのだ失敬」(本書より)
- 大きな失礼を小さな失礼で隠す、いわば言葉のマジック。明かな過失であっても珠玉の言い訳で乗り切る様は、さすが誰もが知る文豪といったところである。
- 石川啄木も突拍子もない言い訳を残している。何かと世話になっている親戚に対し、無沙汰を決め込むのは心苦しいもの。だが啄木は無沙汰を詫びる際、意味不明に堂々としていた。
「白状すると、実は此一ヶ月許りの間、君に手紙を書くという事が僕にとって少なからぬ苦痛であった。(中略)何故苦痛だったかというに、僕は何も書かずにいたからだ。芸術的良心とかいう奴が、少なからず麻痺していたからだ。怠けたのではないが、事実は怠けたと同様だ。何も書かずにいて君へ手紙かくのは苦痛だよ」(本書より)
- 「音信不通にした理由は、手紙を書くのが苦痛だったため。創作ができないのに手紙なんか書けるわけがない。ゆえに苦痛でしかなかった」と言い訳しているのだ。
- しかし不思議と潔さを感じるのもまた事実。啄木といえば「ダメ人間」の印象が強かったが、逆にここまでくるといっそ清々しい。むしろこれぞ啄木といった感じで愛らしく感じる。
(2021-01-21 BOOKSTAND)
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