〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

「近々死ぬと分かれば やさしくなれるのに……」啄木のセリフ

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ノゲシ

中日春秋(朝刊コラム)

  • 「近々死ぬと分かればこんなにやさしくなれるのに。不思議だもな、人間て……」。井上ひさしさんの戯曲『泣き虫なまいき石川啄木』にこんなせりふがある。
  • 場面は一九一二(明治四十五)年。啄木の病は既に重く、妻の節子も結核を患っている。啄木の母カツは節子につらく当たってきたが、節子の病の重さを知って、やさしくなる。それを見た啄木のつぶやきである。
  • 新型コロナウイルスの世界的感染拡大を受けて、米ニューヨークの国連本部で四月二十七日から開催予定だった核拡散防止条約(NPT)再検討会議の延期が決定した。感染リスクを思えば、やむを得ないとはいえ、あのせりふが浮かび、今こそ話し合いの季節ではなかったかとも思う。
  • 延期は一年程度か。新型コロナに肝を冷やした人類が核問題で互いに「やさしくなれる」ことを期待する。

(2020-03-30 中日新聞

 

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