[トウガラシ]
・連載
(生老病死)煩悩系、漱石のこころ変わり 山折哲雄
- 大和ことばの「こころ」と「心」が、すでに千年の歴史を刻んでいたことをいった。その大きな二つの記憶の流れを、明治の幕開けに鮮やかな形でのぞかせてくれるのが、意外なことではあるけれども、夏目漱石と石川啄木だった。
- 二人はほとんど同時代、朝日新聞で仕事をしていた。一人は新進の作家、もう一人は校正係として、一方は文運上昇中、他方は下積み無名のまま……。
- 今日の目から眺めれば不思議な偶然というほかはない。この二人がともに「こころ」の領域に惹(ひ)きつけられ、作家活動をはじめていたことに驚かされる。ときに日本は日露戦争に危うく勝利して西欧列強に伍(ご)し、国内的には言文一致の運動を展開しようとしていた。
- まず漱石について。『心』を連載するにあたって、タイトルは「心」だった。ところが連載が終わり、いざ単行本で出すという段になって、それがにわかに「こころ(こゝろ)」に改められている。いったいどうして、突如そのような変更が加えられたのか。(宗教学者)
(2019-01-19 朝日新聞)
(生老病死)煩悩系、漱石のこころ変わり 山折哲雄:朝日新聞デジタル