[クイーンエリザベス]
「いばらき春秋」 [茨城新聞]
- 梅干しは昔から庶民の万能薬といわれるが、短歌にも万能の下の句というのがあるらしい。「それにつけても金の欲しさよ」。この句さえ付ければ、どんな歌もそれなりに様になるという。
- 例えば、啄木の名歌「東海の小島の磯の白砂に われ泣きぬれて蟹(かに)とたわむる」。不謹慎にも下の句を入れ替えると「東海の小島の磯の白砂に それにつけても金の欲しさよ」。元歌の情感や深みは跡形もなくなるが、確かにどこか意味ありげにも思えてくる。何より金に見放された詠み手の嘆息が切々と伝わってくるのが妙におかしい。
- 万能句の創始者は江戸後期の狂歌師・太田南畝(なんぽ)とも戦国時代の連歌師・山崎宗鑑(そうかん)ともいわれるが、はっきりしない。確かなのは金の回って来ない嘆きがはるか昔から庶民の間に連綿と続いてきたことだ。(敏)