〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い息づかいに触れてみたい

秋田県鹿角と石川啄木をつなぐ縁 <9>

啄木文学散歩・もくじ


9 鹿角市役所前庭にある「石川啄木詩碑」


鹿角市役所前

矢印の下、緑の中に長方形の啄木詩碑がある。








啄木詩碑

よく手入れされた庭園。

大きな鯉の泳ぐ池の畔にある







堂々たる風格

縦0.9m、横2.2m、奥行0.3m。


発表

◎「明星」 1906(明治39)年1月号
 「鹿角の国を憶ふ歌」 <詩> 
◎「紅苜蓿」 1907(明治40)年2月号
 「鹿角の國を憶ふ歌」 <詩>


 (『石川啄木全集 第二巻』(筑摩書房)掲載の「鹿角の國を憶ふ歌」を読むと、「明星」と「紅苜蓿」では多少の違いがある)








   鹿角の国を懐ふ歌
         石川啄木


  青垣山を繞らせる

  天さかる鹿角の国をしのぶれば、

  涙し流る。──今も猶、錦木塚の

  大公孫樹、月よき夜は夜な夜なに、

  夏も黄金の葉と変り、代々に伝へて、

  あたらしき恋の譚の梭の音の、

  風吹きくれば吹きゆけば、枝ゆ静かに、

  月の光の白糸の細布をこそ

  織ると聞け。

  十和田の嶽の古沢の

  鬼栖める峡のふかみに、古へゆ

  こもれる雲の滴りの、足あとつかぬ

  岩苔の緑を吸ひて流れ来し

  渓川崖路、さを鹿の妻恋ひ啼くに、

  人怖ぢぬ鹿角の国をしのぶれば、

  涙し流る。──その昔、代々に朽せぬ

  碑やはた、白石の廻廊や、

  王垣、壁画、銅の獅子、また物語、

  のこさねど、日月星を生む如く、

  人の国なるきらら星──芸術の燭の

  生の親「愛」こそ、先づは、若児等の

  相思の花に映り出でて、花の印や、

  錦木も色をぞ添へし真盛りに、

  鹿笛吹きならす猟夫らが弓の弦緒の

  鳴りの音も、枝に列べる彩雉子の

  番と見れば、鳴らざりしその昔、

  しのぶれば涙し流る。

  神の使の羽かろき

  蜻蛉子が告げの泉の壽きに

  流れはつきぬ米白の水にうるほふ

  高草の鹿角の国をしのぶれば、

  涙し流る。──その川に斎ひ心の

  肌浄め、朝な夕なにみがかれて、

  みめも清しく色白の鹿角少女が、

  夕づとめ、──肩にま白き雲纏ふ

  逆鉾杉の神寂びし根にむら繁る

  大木の中は神住む古御堂、

  壁の墨絵の大井も浮きてし見ゆる

  目暮れ時、樹がくれ沈む秋の日の

  黄に曳く摺裳みだれ這ふ石階ふみて、

  静静と御供の神米、ささげつつ、

  伏目にのぼる麻衣が、藁束ねせし

  黒髪に神代の水の香こそすれ。

  かへしの足の小ばしりに、杉の陰路を

  すたすたと、露に濡れたる真素足に

  行きこそ通へ、──はららかす袖に葉洩れの

  日を染めて神の使の蜻蛉子が

  いのちの水の源を告げに来し日を

  さながらに、──青駒飼へる背が門へ。

  その敬虔さ、美しさ、米白川と

  もろともに流れたえせぬ風流の

  錦木立てし若児等が色にも出づる

  心映、──神代のままを目のあたり

  見ると思へば涙し流る。


    (浅沼秀政『啄木文学碑紀行』白ゆり発行 1996年)


(つづく)