〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木が短歌を選択し 民衆の「生きられた現実」を捉え直そうと…

◎本よみうり堂 書評<読売新聞
『初期社会主義地形学(トポグラフィー) 大杉栄とその時代』梅森直之
  有志舎 5400円

変革促す「文の力」 評・安藤宏(国文学者・東京大教授)

  • 大杉栄幸徳秋水など、このところ明治大正期の社会主義を再評価する気運が高まっている。ベルリンの壁の崩壊以降、社会主義国家への幻想は潰えたが、貧困と格差は今日なお、ますます拡大しつつある。
  • 通読して心ひかれるのは、彼らの実践を一貫して言語の問題として扱おうとする本書の姿勢である。
  • 大杉栄は吃音に悩んでいたが、陸軍幼年学校を退校すると回復し、標準語で社会主義を演説しようとするとまたもとに戻ってしまう。獄中で「革命家」としての発話の位置を定めることによって、彼はようやくこれを克服することができたのだった。
  • 石川啄木が小説を断念し、短歌を選択したのも、統括的な均質性を求められる散文の論理に対し、生活の断片を、民衆の「生きられた現実」として捉え直そうとしたからなのだ。
  • 現実を変革していくのはまず何よりも「文の力」なのだ、という本書の言には、社会科学と人文科学との“共働”の可能性があざやかに示されているように思う。

(2016-10-03 読売新聞)