[アセビ]
「啄木 賢治の肖像」
⑮ 識者に聞く 日本歌人クラブ会長・三枝昻之さん
望郷の念 端的に詠む
◎啄木の短歌で、山や川はどのように表現されているか。
- 『かにかくに渋民村は恋しかり/おもひでの山/おもひでの川』は、山や川が具体的な名前でないことから、万人に受け入れられている。自分なりの歌として感動できるところが啄木の歌の特徴で、親しみやすさにつながっている。
◎作品の魅力は。
- 啄木は誰にでも分かる言葉で端的にふるさとの恋しさを詠んでいる。表現を工夫しようとすると、難しく、より個性的になる。啄木は個性よりも、自分の心に素直に短歌をつくった。
◎当時の時代背景は。
- 明治になると各地に鉄道が敷かれ、地方から東京へ、という人の流れができる。古里を離れて東京へ出て来て、東京で古里を恋い慕う、という離郷と望郷が、時代の大切なテーマになった。
- 啄木は『病のごと/思郷のこころ湧く日なり/目にあをぞらの煙かなしも』と、思郷を『病』と例えた。当時の流行歌とも言える唱歌『故郷』は1914(大正3)年につくられている。啄木の歌に刺激を受けていたかもしれない。
◎現代の短歌界に啄木が与えた影響は。
☆作品、背景に理解深め 国際啄木学会盛岡支部
- 国際啄木学会の国内外にある支部の一つである盛岡支部は、月例研究会をこれまでに220回開いている。最新の調査研究成果を報告したり、啄木の日記を読んだりして、作品や背景に理解を深めている。論文を掲載した会報も年1回発行している。
- 毎年4月には「啄木忌前夜祭」を主催。第12回の今年は12日に、「小中高大生は啄木をどう読むか」と題したパネルディスカッションと声楽家による啄木の歌独唱、講演の3部構成で、啄木の魅力を市民に伝えた。
(筆者 啄木編・阿部友衣子=学芸部)
(2016-04-13 岩手日報)
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