〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

「はるかに北にふるさとの山見え来れば…」啄木


[クロガネモチ]


内館牧子の仙台だより
「ふるさと」の広瀬川(134)

  • 私は東京から東北新幹線に乗ると、白石蔵王を通り過ぎたあたりから、ソワソワし始める。
  • そろそろ広瀬川が近いからだ。誰に命じられたわけでもないが、広瀬川は絶対に見ないとならない。広瀬川を見ると「ああ、仙台だァ」と思う。そのために、私は白石蔵王からドキドキして心の準備をしているわけだ。
  • 6年前、私は岩手の盛岡で倒れ、九死に一生を得た。盛岡は父の故郷であり、私の体にも岩手の血が流れている。病室から見えた岩手山が力を与えてくれたこともあって、岩手山が近くなるとやはり身が引きしまる。拝みたくなる。
  • そして先日、盛岡に行く車中で石川啄木の資料を読んでいた。するとその中に、「はるかに北にふるさとの山見え来れば/襟を正すも」という歌があった。啄木は岩手の出身であり、山はたぶん岩手山だろう。ああ、ふるさとの山や川というものを見ると、誰でもこういう気持ちになるのだなァ……と胸にしみた。この歌を作ったのは明治43年だが、啄木は明治40年に岩手を出て以来、岩手に帰ることなく死んでいる。この歌はつまり、帰れないふるさとを思い、詠んだのだろう。

(2014-10-31 読売新聞)

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