サンデー毎日 [2014年3月23日号]
歌鏡(十)
やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに
石川啄木
- 岩手県の弓弭(ゆはず)の泉に源を発し、盛岡市や花巻市などを通って宮城県に流れていく北上川は、流域面積1万150平方キロメートルを誇る東北最大の川だ。啄木の他に宮沢賢治も斎藤茂吉も歌を詠んでいる。
- 3月11日に発生した東日本大震災で最も痛ましい出来事の一つとして記憶されるのが、石巻市立大川小学校の悲劇だろう。「ふるさとのやまに向ひて言ふことなしふるさとの山はありがたきかな」と詠んだ啄木は、大震災から3年経った今、故郷の人々にどんな言葉をかけたいだろうか。
- 被災地に立つと、あらためて啄木の歌が沁みる。仕事がうまくいかなくても、病気でも、家族を育むために一生懸命働き、空を見上げ、山を仰ぎ続けた啄木。彼もかつて子どもを亡くしていた。どんなにつらくても悲しくても、生きる。どこかで自分を見てくれているであろう子どもに手を振るように、歯を食いしばって生き抜いていく。自然に抱かれ、魂を鼓舞させながら、啄木はそう決心していた。(歌人・田中章義)