〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

かなしくも/夜明くるまでは残りゐぬ/息きれし児の肌のぬくもり  石川啄木


[ヘラオオバコ]


照明灯

  • 石川啄木は長男の真一を生後3週間余りで亡くしている。直後に出版した初めての歌集「一握の砂」に「亡児真一に手向く」と書いた。
  • 「一握の砂」に、真一の最期を詠んだ数首がある。二三(ふたみ)こゑ/いまはのきはに微(かす)かにも泣きしといふに/なみだ誘はる―。啄木が勤め先から帰った深夜、既に不帰の人になっていた。各地を流浪し、団欒の2文字に縁遠かったようにみえる啄木のわが子を失った痛切が胸に浸みる。
  • こんな一首もある。かなしくも/夜明くるまでは残りゐぬ/息きれし児(こ)の肌のぬくもり―。慈しみ育ててきた子どもの表情が脳裏から離れず、死を受け入れられない。幼子ならなおのこと、いつの時代も変わらない親の心情だろう。
  • 「大きな希望を残してくれました」。脳死移植手術で臓器を提供した男の子の両親はつづった。……

(2012-06-19 神奈川新聞>照明灯)