〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

卓上四季


白熱電球

  • 独り身になったつもりで小説を書いて一旗揚げる―。そんな野心を胸に、石川啄木が、母と妻子を函館に残し、上京したのは1908年(明治41年)4月のことだった。東京に出た啄木は、千駄ケ谷の与謝野寛・晶子宅に身を寄せた。3年ぶりの訪問。四畳半の書斎は本も増えていない。生活は苦しそうだ。ところが…。意外なものが目に留まる。「電灯」が付いていた。啄木は<少なからず驚かされた>と日記に書いている。寛は「かえって経済的なのだ」と説明をしたが、<この四畳半の人と物と趣味とに不調和であった>と啄木の筆は辛辣(しんらつ)だ。
  • 啄木はかつて詠んだ。<秋近し! 電燈の球(たま)のぬくもりの さはれば指の皮膚に親しき>。

(2012-06-15 北海道新聞