[花筏]
NHK新潟ラジオセンター「朝の随想」
「会う=啄木没後100年」放送日 4月10日
山下多恵子 さん (国際啄木学会理事)
- もしも歴史上の人物にたったひとり会うことができるとしたら、私は迷うことなく石川啄木に会いにいきます。
- 啄木の歌集『一握の砂』は、文学性の高さ、多くの人に親しまれているという点で近代以降の歌集のなかでも突出しています。
砂山の砂に腹這ひ/初恋の/いたみを遠くおもひ出づる日
山の子の/山を思ふがごとくにも/かなしき時は君を思へり
はたらけど/はたらけど猶わが生活楽にならざり/ぢつと手を見る
- 私たちは嬉しいとき淋しいとき苦しいとき、『一握の砂』を開くとその時の感情にぴったりの歌が必ず載っています。
- 啄木が亡くなって今年で100年になります。1912年(明治45)4月13日、啄木は息を引き取りました。桜の散る午前九時半でした。臨終に立ち会った歌人の若山牧水は、啄木が昏睡状態になったとき啄木の娘の京子さんがいないことに気づき、探しに外へ出ました。当時5歳の京子さんは家の前で桜の花びらをひろって遊んでいました。私は桜の季節になるとそのような情景を思い出します。
- 啄木は、わずか26年2カ月の生涯を実によく生きた人であり、人を愛し人に愛される人間でした。欠陥の多い人間でもありました。しかし、彼は何度も挫折し、立ち上がるときはもっと大人に変わっていきました。私は成長し続ける啄木に魅力を感じています。
- 啄木に会うことは叶わないことですが、彼は作品を通して「生きなさい。生きるんですよ」と私たちをやさしく励ましてくれるような気がします。そう思うと、生きる力が湧いてきます。それを私は「啄木の力」とよんでいます。
◎山下多恵子さんの話は毎週火曜日、半年間、26回ある。