2012-04-15 天声人語 啄木 広場 季節の話題を書いて頂戴する便りに、日本列島の「長さ」を思うことがある。 昨日が100年の命日だった石川啄木の日記にこんな一節がある。〈渋民村の皐月(さつき)は、一年中最も楽しい時である。天下の春を集めて、そしてそれを北方に送り出してやる時である〉。5月の描写だが、ふるさと岩手の遅い春の歓喜は、堀口の詩と通じあう。石川啄木記念館に聞くと、いまも畑に少し雪が残り、桜は蕾が堅いそうだ。だが、冬ざれからようやくフキノトウが出てきたという。「天下の春を集める」まで、もういっときである。 (2012-04-14 朝日新聞>天声人語)