〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木と父一禎の歌碑が高知駅前に建てられた経緯

支局長からの手紙:ふるさとを記す /高知

  • 「これというスクープはありません。それでも、自分でなければ書けなかったであろう記事もあります」。四万十町志和に生まれ、広島で原爆に遭い、俳句や短歌を愛し、宗教を専門分野として記事を書き続けてきた山野上純夫さん(82)=京都府八幡市毎日新聞と宗教専門紙「中外日報」で足かけ60年働いてきたベテラン記者が、引退にあたって「記者生活六十年 ふるさと暦」(洛西書院)を出版しました。
  • 山野上さんにとって、思いを寄せる「ふるさと」は四つ。…… それぞれのふるさとにまつわる記事を選ぶ中、高知については、石川啄木と父一禎の歌碑がJR高知駅前に建てられた経緯と一禎の人柄の話を盛り込みました。
  • 山野上さんは、高知駅前にあった「啄木の父・石川一禎終焉の地」の標柱が駅前再開発で撤去されたままになっていることを、09年に毎日新聞高知支局に伝えました。当時の大澤重人支局長は、標柱が倉庫に保管され、再建のめどはたっていないことを報じました。この記事がきっかけとなり、啄木と高知で亡くなった一禎を顕彰する機運が盛り上がり、同年9月に歌碑は除幕されました。
  • 驚くのは観察眼と記憶力、そして執念です。駅前で標柱を見つけたのが十数年前。それから帰省のたびに確認し、なくなっていることに気づき、後輩に追跡取材を依頼する。若い頃から親しんできた短歌の世界の話とはいえ、問題意識を長年にわたって持ち続けることは並大抵ではありません。

(高知支局長・藤田宰司)

(2012-04-08 毎日新聞>高知)