【飛行機雲】
「この世界の片隅に (下)」
1945年の夏、激しい爆撃にさらされ、原子爆弾を投下された広島に生きる人々。ヒロインはすず。
米軍の空襲で道ばたの溝に転げ落ちた夫が、脇に転がる妻へ言った。
「 すずさん
わしは楽しかったで
この一年 あんたの居る家へ帰れて
あんたと連ろうて歩くんも
たらたら喋るんも
嬉しかったで
あんたは違うか 」
すずの持つ力は、頑なな態度をとっていた義理の姉をも暖かい味方に変えてしまう。
表紙カバーの絵は、すずが赤とんぼの飛ぶ瓦屋根に微笑んで横たわっている。その右手の先が、カバーの折り返しに入って見えない。胸騒がせながらそっとカバーの折り返しを開くと・・・・。
著者のこうの史代さんがあとがきで、「のうのうと利き手で漫画を描ける平和」と書いている。このことばの持つ意味を噛みしめたい。
私は頼りないちっぽけな存在だが、この世界に生まれてきて良かったと思わせてくれた本だ。
「この世界の片隅に(上)」
「この世界の片隅に(中)」