〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

『宮静枝 詞華選集 anthologie』いっても 行っても 菜の花ばかり


【表紙】


『宮静枝 詞華選集 anthologie』

  • 宮静枝 著 未知谷 出版
  • 2009年 3,000円+税

宮静枝さんは1910年岩手県生まれ。石川啄木の短歌に魅かれ創作を始める。10冊の詩集、4冊の随想集、1冊の小説集を刊行。2006年逝去。享年96歳。


初期詩篇の中に啄木の二人の娘の死を哀悼し詠んだ歌があった。

  いくたびぞ
  陽は西にかへり人の子の
  魂は安きをもとめてぞゆく


ご子息のみやこうせいさんは、あとがきで「(母は)人間が好きで仕方なく、また、ひどい淋しがりで、去る者は七歩ほど追い、来る者は多少癖があっても、逆に面白がって拒まず、だった」「記憶力は抜きん出て、頭ではなく全心身で人の話を聞いて、数時間分、余さず文章として再現できた」と、お書きになっている。
たった一枚載っている高村光太郎さんと宮静枝さんとのスナップ写真を見ていると、ちょっと浮かして止まった静枝さんの爪先が、これからスキップを始めそうに見えた。


私の一番好きな詩。

「利休鼡」


そうか そうか
城ヶ島では木の上に住んでいる鼡がいて
木の上で追いかけごっこして
足ふみすべらして
雨のようにパラパラ落ちて来るんだ
それはきっとピーナッツ位の大きさにちがいない
  雨は降る降る 城ヶ島の磯に
  利休鼡の雨が降る


(つづく)

この詩を読むと、「総じて、かわいらしい人で、…常に新鮮な感覚と知的好奇心を持していた」と、こうせいさんが書かれているとおりの人柄が浮かぶ。


表紙写真は、みやこうせいさん。菜の花の道を手前から奥に辿ると自然に森の中に入る。そのままその道は・・・・・。


いっても 行っても
菜の花ばかり
いっても 行っても
菜の花ばかり
菜の花はながれ


(つづく)


「菜の花短章」

そして、さらに『花綵列島』(第二詩集)に導いてくれる。


しんとした心で読み続けたい。