【サクラ サク】
今も読み継がれる詩「飛行機」
- 「飛ぶ夢を見た罰として永久に地上を走る地下鉄がある」。最近の短歌雑誌で若い歌人、石川美南のこの歌を見た松本健一さん(麗沢大教授)は、明治43(1910)年に評論「時代閉塞の現状」を書いた石川啄木が死の前年となる同44年に書き、今も読み継がれる詩「飛行機」を思い浮かべた。
見よ、今日も、かの蒼空に 飛行機の高く飛べるを。
給仕づとめの少年が たまに非番の日曜日、肺病やみの母親とたった二人の家にゐて、ひとりせっせとリイダアの独学をする眼の疲れ……
見よ、今日も、かの蒼空に 飛行機の高く飛べるを。
- 「独学するも、日常の淀みにすべてをとられる少年がいる。彼にとって飛行機の姿は見えない。このアンバランスというか、格差はすごいが、決して敗北的ではない。そんな時代を啄木は見通し、考え抜いたからこそ、この詩は今も読み継がれる。・・・」と松本さん。
- 日本の近代史に詳しい松本さんは、かつての閉塞状況にあった時代の日本から、100年後にまで影響を与える多くの優れた作品や思想が生まれてきたことに注目する。
(編集委員・四ノ原恒憲)
(2009-04-02 朝日新聞 文化 トピックス)