〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

牧水は プライドの高い啄木が 唯一認めた才能だったのかも

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カエデ

(古典百名山:79)「若山牧水歌集」 平田オリザが読む

自然主義」超え、今なお響く

  • 先回取り上げた石川啄木の臨終には家族の他に若山牧水だけが付き添っていた。それは啄木の希望だった。牧水はあのプライドの高い啄木が、唯一認めた才能だったのかもしれない。

白鳥(しらとり)は哀(かな)しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ

  • 啄木に比べると牧水には、社会問題を扱った作品はほとんどない。しかし例えば、次の歌はどうだろうか?

幾山河越えさり行かば寂しさの終(は)てなむ国ぞ今日も旅ゆく

  • これを、啄木が言うところの日露戦後の「時代閉塞(へいそく)の現状」と重ね合わせることは無理があるだろうか。どうも私には、日本の自然を愛した牧水の歌は、変わりゆく国のあり方を嘆く魂の叫びにも思えるのだ。もしもそうであるなら牧水もまた、明治から大正へと続く、近代文学の曲がり角に、しっかりと位置する文学者だと言えるだろう。(劇作家・演出家)

(2020-05-16 朝日新聞

 

(古典百名山:79)「若山牧水歌集」 平田オリザが読む:朝日新聞デジタル