「自然主義」超え、今なお響く
白鳥(しらとり)は哀(かな)しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ
- 啄木に比べると牧水には、社会問題を扱った作品はほとんどない。しかし例えば、次の歌はどうだろうか?
幾山河越えさり行かば寂しさの終(は)てなむ国ぞ今日も旅ゆく
- これを、啄木が言うところの日露戦後の「時代閉塞(へいそく)の現状」と重ね合わせることは無理があるだろうか。どうも私には、日本の自然を愛した牧水の歌は、変わりゆく国のあり方を嘆く魂の叫びにも思えるのだ。もしもそうであるなら牧水もまた、明治から大正へと続く、近代文学の曲がり角に、しっかりと位置する文学者だと言えるだろう。(劇作家・演出家)
(2020-05-16 朝日新聞)