連載 歴史のダイヤグラム
啄木が愛した石狩の海 原武史
- 函館本線の列車は小樽を出ると、左手に日本海に属する石狩湾が現れる。右手は山が急傾斜で湾に落ちている。列車は朝里(あさり)から銭函(ぜにばこ)まで約8キロにわたり、山と湾の間に築かれた低い護岸に沿って走る。人家や道路は全く見えない。地形が幸いして奇跡的に開発を免れてきたのだ。
「窓越しに見る雪の海、深碧(しんぺき)の面が際限もなく皺立(しわだ)って、車輛(しゃりょう)を洗うかと許(ばか)り岸辺の岩に砕くる波の徂来(ゆきき)、碧(あお)い海の声の白さは降る雪よりも美しい。朝里張碓(はりうす)は斯(か)くて後になって、銭函を過ぐれば石狩の平野である」(「雪中行」)
(2020-05-16 朝日新聞)