〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

 情念の痛烈さをうたった石川啄木


[コムラサキ]


松尾羊一のめでぃあ亭
 「戦後」は終わったのか?

 X 招かれて若い人に話をした折のことだ。やたらに「戦後」を連発したら、突然「戦後って何ですか」と聞かれ、驚いた。
 D 平成生まれの若者が一つ手前の昭和を、ましてや戦後を知るはずない。当然だろう。
 X そういえば、今年放送されたNHK連続テレビ小説ひよっこ」は「戦後って何ですか」の疑問に真正面から取り組んだドラマだった。
 D 「ひよっこ」で上京した出稼ぎの農民たちや「金の卵」の男女、あるいは学生の多くが帰郷せず永住し、都会を急速に肥大化させた。農民的勤勉さで高度成長を支えた年月の節目節目の意味合いを、脚本を書いた岡田恵和は転々と町中に生きる彼らの「個性」に絡ませ、温かい目で細々と静かに描き切った。
 X しかし、彼らの本心はドラマの舞台である奥茨城の農民魂にある。さらに、東北一帯から北海道につながる日本列島の厳しい“北の条件”を担保にして独自な北方文化を開花させた。
 B 宇宙観と農村を結び付けた宮沢賢治と、情念の痛烈さをうたった石川啄木だな。
 C 結局、「戦後って何ですか」に帰りたいのだが。
 D 逆説めくが、戦後は戦争が終わった時点から、とっくに「カッコ」付きの戦後が始まっているのかもしれない。
 X もしかすると、それは安易な改憲論議のかまびすしさかもしれない。俗の戦後、聖の戦後の裏に本当の戦後は隠れている。そう思いたい。
(2017-11-29 毎日新聞 東京夕刊)


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