〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

 啄木の歌には己を頼む思いが滲む 虫武の歌の自己評価はゼロかマイナス


[アキノキリンソウ]


気鋭歌人の群像(2) 劣化する労働環境での生活投影 [日本経済新聞]

  心は人間性を希求  梅内美華子

  • 今の40代以下の世代はバブル崩壊後に社会に出て、不景気が恒常化した時代を生きることを余儀なくされてきた。フリーターや非正規労働、ブラック企業などは社会問題となってきたが、そうした状況下で働き、生きることの困難はこの世代の歌人の重要な主題となった。注目すべき歌人に虫武一俊がいる。

 〈三十歳職歴なしと告げたとき面接官のはるかな吐息〉(『羽虫群』)

  • 面接官と断絶感  「職歴」を自身の証明、価値とするとき、そこから完全に外れてしまう「私」。「はるかな吐息」に言葉のセンスが光る。自分の経歴と面接官が求めるものとの大きな差、埋めようのない断絶を想起させる。
  • かつて石川啄木は〈はたらけど/はたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざり/ぢつと手を見る〉(『一握の砂』)と貧しさをうたった。啄木の歌には不遇にあっても己を頼む思いが滲(にじ)むが、虫武の歌からうかがえる自己評価はゼロかマイナスだ。両者が詠む貧しさには質的に大きな差異がある。(歌人

(2017-10-11 日本経済新聞 夕刊)


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