〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

石川啄木を歌で伝える ソプラノ声楽家・田中美沙季さん /岩手

いわて人模様

  • 「ふるさとの 山に向かひて 言ふことなし−−」。故郷の偉人、石川啄木の短歌を、ピアノの曲に合わせ澄んだ声で優雅に歌う。高校を卒業後、東京の国立音楽大に進みオペラを勉強する日々、東日本大震災が発生。雫石町の実家の家族とは1週間後に連絡が取れたが、コンサートが中止になるなど周囲は自粛ムードに包まれた。
  • 2012年3月。震災後、初めて岩手で歌うことになった。地元の人がなじみやすいようにと、啄木が作詞した「初恋」を歌うと、大勢の人が喜んでくれた。それから、啄木を歌うようになった。2014年、祖父母の勧めで、盛岡市石川啄木記念館を訪れた。そこにいた来館者に「歌を聞いてみたい」とせがまれた。少し気恥ずかしかったが、アカペラで「初恋」を歌う。気付くと、涙を流して聞いてくれていた。
  • 今は啄木のレパートリーも40曲に増えた。啄木の「作品の奥底に必ず希望を感じる」という。歌集「一握の砂」に収められた「はたらけどーー」の歌も「この手があれば、まだ頑張れるって思ったかもしれない」と話す。「啄木は手を見た。私は歌の音色で心に何か届くものを伝え、岩手の文化、芸術に貢献したい」。今年は啄木生誕の130周年。秋には盛岡で記念コンサートを開く。【藤井朋子】

(2016-04-28 毎日新聞

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