〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

「かなしきは小樽の町よ…」啄木がうたう


[ゼフィランサス]


(各駅停話)小樽駅 啄木がうたった「北のウォール街

  • 小樽駅は、たそがれどきが、美しい。今年111歳の駅を行き交う旅人を、333個のランプが柔らかく包み込む。小樽ガラスの名を全国に知らしめた老舗(しにせ)「北一硝子(きたいちがらす)」から贈られた。
  • 1907(明治40)年9月。開業4年後のやはり、たそがれどき。一人の男がここに降り立った。

 石川啄木、21歳。

  • 「この人を頼って、啄木は小樽に来たのです」。駅長室に招き入れてくれた第50代駅長の安藤昭彦さんが、壁にかかる人名板を指さした。

 山本千三郎。

  • 初代駅長を務めたその人こそ、啄木の姉の夫。この年の8月、函館大火で焼け出され、啄木一家は、小樽に転がり込んだ。小樽日報に記者として採用されたが、上司とことごとく対立して退社。115日間の滞在で釧路に去った。
  • 歌集「一握の砂」に、小樽をうたった歌がある。

  かなしきは小樽の町よ
  歌ふことなき人人の
  声の荒さよ

  • 「小樽人の啄木愛憎。その原点がこの歌にある」と、小樽啄木会の前会長、水口忠さんはいう。「啄木は、『愛(かな)し』の意味で『かなし』を使ったと思うんです」。
  • 100年の時を超えて、啄木は、時代の空気を私たちに教えてくれている。(日比野容子)

(2014-06-23 朝日新聞

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