〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

寄稿=「南蛮寺門前」めぐる杢太郎の無念

 伊東市社会教育指導員・丸井重孝

  • 伊東市立木下杢太郎記念館の第28回特別展が、「南蛮寺門前百年」というテーマで、5月11日(日)まで開催中だ。戯曲「南蛮寺門前」の初出は明治42(1909)年「スバル」第1巻第2号であり、杢太郎の代表作の一つだ。
  • 今回の特別展の中心資料の一つは、杢太郎の随筆「南蛮寺門前」の直筆原稿だ。これには戯曲の初出誌掲載をめぐって同誌の編集長・石川啄木との間に齟齬(そご)があったことが書かれている。
  • 杢太郎は次のように言う。「今でも僕は残念に思つてゐるのだが、それは僕の戯曲の第一作の『南蛮寺門前』をば、森先生が校正の時添削して下さるといふのを、その時昴[すばる]の第二号の編輯[へんしゅう]を引受けてゐた石川啄木の偏執からその機会を失したことである。
  • 杢太郎の気持ちも分かるが、啄木の言い分も分からないわけではない。あえて鴎外に見せるまでもなく啄木はこの作品を高く評価していたものと思える。何と「スバル」の巻頭に掲げたばかりでなく、裏表紙には一面全体を使って杢太郎の描いた「南蛮寺門前」の絵を掲載しているのだ。

(2014-04-17 伊豆新聞