〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

国際啄木学会「2012年秋のセミナー」<その5> 啄木行事レポート

《関連イベントに参加しての私的レポート》


[崔華月 氏]


「日本語非母語者が感じる『悲しき玩具』の難しさ」 崔華月

◎ 漢字の読み方
『悲しき玩具』に出てくる漢字の読み方
  ・故郷=こきやう(ふるさと、とも読める)
  ・玩具=おもちや(がんぐ、とも読める)
  ・呼吸=いき(こきゅう、とも読める)
「呼吸=いき」の場合は辞書で探してもない読み方で、ルビがないと啄木が書いたとおりに読めないことが考えられる。中国には漢字一つに対して 1 種類の読みしかない。日本語の読み方は多様で、混乱して啄木短歌の難しさを感じる。
◎ 漢字の誤用
啄木歌に出てくる「誤植」という単語は、中国語に直訳すると「間違って、植える」となる。日本語の辞書を引いて「印刷物で、文字・記号に誤りがあること」の意味だとわかった。漢字だけをみて、その単語の意味を推測すると、短歌の意味を間違って理解することもある。
◎ 仮名遣い
歴史的仮名遣
  ・思「ひ」湧き来ぬ、有る「や」うで無し、ち「や」うど
短歌の評釈を読んで意味が分かっても、正しく読めないことは大いに考えられる。
たくさんの日本語非母語者に啄木短歌を読んでもらい、短歌の意味を正しく理解してもらうためには、何が必要かについても検証する必要があると考えている。


────────────────────────


[高淑玲 氏]


「『悲しき玩具』の三行書き形式の一考察」 高淑玲
  ─ スタイルとリズムとの調和をめぐって ─
◎ 啄木の短歌の三行書きについて
詩集『あこがれ』には、すでに行分け、句跨り、句点、読点、!、ダッシュ、( )、『』などの符号や字下げを用いていた。初期の詩作にはすでに芽生えている。
◎『悲しき玩具』の三行書き形式におけるスタイル変化とリズムとの調和
啄木は短歌をぎりぎりの線まで解放させ、新たな短歌の世界を開拓しようとした。
  痛む歯をおさへつつ、
  日が赤赤と、
  冬の靄の中にのぼるを見たり。


  名は何と言ひけむ。
  姓は鈴木なりき。
  今はどうして何処にゐるらむ。
句読点の助けがあるため、全体として意味の切れ目より、リズムの切れ目を大切にするイメージが強い。韻律のリズムを優先するとき、意味側リズムに生じるシンコペーション的表現効果があらわれる。
◎ 啄木の歌は「視覚」と「聴覚」の両面からの鑑賞に耐えるように工夫されている。啄木は伝達しようとする心を「歌には一首一首各々異なった調子」という内在律に耳傾けて、彼なりの一流の技巧で調和させたのだ。100年たった今日でも広く愛唱されている理由の一つは、三行書き短歌のスタイル変化とリズムとの短歌のバランスを、彼なりにとっているからと思う。


(つづく)