〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

没後100年─屈指の啄木本の誕生を喜ぶ

紅通信 No.68(紅書房 2012-09-20発行)
  竹原三哉 著『啄木の函館 ─実に美しき海区なり』鑑賞
   山下多恵子(国際啄木学会理事)

  • 石川啄木は、26年2ヶ月の生涯のうち132日間を函館で過ごした。
  • 「石をもて追はるるごとく/ふるさとを出」た啄木が新しい生活の地を函館に求めたのは、文芸結社「苜蓿社」の同人誌である「紅苜蓿」に詩を寄せたことがきっかけであったが、同人たちと親しく語らった日々は、啄木のその後の文学と人生に大きな影響を与えた。…その体験がなければ、歌集『一握の砂』は存在しなかったかもしれない。
  • 「函館は実に美しき海区なり」と感嘆した啄木は、今は家族とともに海の見える岬に眠る。
  • この街に生まれ育ち、現在「函館市文学館」で啄木関係の資料に囲まれて日を送る著者の竹原三哉氏は、函館と啄木の両方を深く知る人物である。
  • 瞠目すべきはその実証精神である。青柳町大森浜立待岬…函館のそこここに、かすかに残る啄木の足跡を丹念に追い、さらに能うかぎりの資料を調べ尽くし、それらをもとに場所や人物を特定していく過程は、さながら推理小説を読むような興奮を誘う。
  • 没後100年の年に、本書を得たことを、啄木を愛する者のひとりとして、心から喜びたい。

『啄木の函館 ──実に美しき海区なり』
  竹原三哉 著 紅書房 発行
  2012年発行 2000円(税込)