[ベニバナヤマボウシ]
《作品に登場する啄木》
『ガン50人の勇気』
柳田 邦男 (著) 文藝春秋
< しなやかな心 >(P.73)
白血病のため十一歳で亡くなった横浜市の宮上裕君の日記『おにいちゃんは一ばんぼし』(創芸社)は、そういう中でも広く知られた記録のようである。
「なるべく母に楽しい顔を見せてドアを開けた。ガチャリ」
この一行は、診察室で医者から入院日を指示されてから、出てきたときのことである。
「ぼくの好きな詩
石川啄木 『悲しき玩具』から
病みてあれば心も弱るらん
さまざまの
泣きたきことが胸にあつまる
たった三行の短い詩だけれども、病気でたおれてねている作者の姿が目にうかぶようだ。これからどうしようか。心細くて、ため息をつき、泣きたくなってふとんの上にいる作者───。
ぼくも入院した初めのころは、病気のため心細かった時があったせいかもしれないが、ぼくはこの詩に親しみを感じる。
たしかに、病気をすると、さまざまないやなこと、つらいことが胸にあつまってくる。
他人のこととはいえないから、ぼくはこの詩が好きなのだ」
裕君は五百冊の本を読んでいた。