〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

死ぬことをやめて帰り来れり 石川啄木


[シャクナゲ]


命の歌を読む 夭折の背景=東直子

  • 光が強くなって緑深まり、希望が満ちているような外界と対極に、精神的に落ち込んでしまう人も増える五月。今月は、夭折歌人の歌を読んでみたい。
  • 大(だい)といふ字(じ)を百(ひゃく)あまり/砂(すな)に書(か)き/死(し)ぬことをやめて帰(かへ)り来(きた)れり 石川啄木
  • 砂浜を一人で歩きながら人生に悩み、自死をも脳にちらつかせた。しかし自分の人間としての小ささに気づき、恥じたのだろう。「大」という字を百も書いた、というのは多少脚色があるようにも思うが、自分の書いた文字で自分を立ち直らせていく姿は、「我を愛する歌」の啄木ならでは、と思う。この歌の入った第一歌集『一握の砂』出版の二年後、二六歳で肺結核にて亡くなっている。
  • 白き骨五つ六つを父と言われわれは小さき手をあわせたり 岸上大作
  • 拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようでもう見れません 笹井宏之

(2012-05-14 毎日新聞