〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

〈はじめての石川啄木〉うそもかわいい人気者

4月13日は歌人石川啄木の命日だった。26歳で病没してから100年、今なお日本で最も親しまれている歌人の一人だが、その本当の素顔と実力は意外に知られていない。

  • 啄木の意外な素顔

実は「天才気取りで生意気な、明るい浪費家だった」と作家関川夏央さんはいう。普通なら嫌われ者になりそうだが、かわいいうそつきの啄木は愛された。師の与謝野鉄幹・晶子もかわいがった。啄木が死んだ時、晶子は啄木のうそを懐かしむ歌を作っている。
 「啄木が嘘(うそ)を云(い)ふ時春かぜに吹かるゝ如くおもひしもわれ」

  • 啄木は古くならないのか

歌人の三枝昂之(たかゆき)さんは、21歳から一度もふるさとに帰ることがなかった啄木の望郷の歌が、改めて読み直されると考えている。いま津波原発事故で、数万の人々が故郷に戻れないでいる。「啄木のうたには万人が自分のふるさとへの思いを託せる普遍性がある」
  かにかくに渋民村は恋しかり
  おもひでの山
  おもひでの川
(伊佐恭子)

  • 自分笑う 意外なユーモア 俳優・段田安則さん

思いがけず、昨秋、井上ひさし作「泣き虫なまいき石川啄木」という芝居に、啄木の父親役で出演し、演出もしました。よく知らなかったので、慌てて調べました。
歌で好きなのは「古新聞!/おやここにおれの歌の事を賞(ほ)めて書いてあり、/二三行なれど。」ですね。意外にユーモアもある人だったんじゃないか。自慢のようで、自分を笑っている。
(2012-05-02 朝日新聞