[啄木歌碑 上野駅構内]
雑誌「日経おとなのOFF」日経BP社 2012年2月号
-穂村弘の現代短歌入門
○ 共感と驚異を織り交ぜる
砂浜に二人で埋めた飛行機の折れた翼を忘れないでね
俵万智
ふるさとの訛なつかし
停車場の人ごみの中に
そを聴きにゆく
石川啄木
[改悪例]
停車場の人ごみの中に
ふと聴きし
わがふるさとの訛なつかし
誰もが経験していることより、1000人中 1人しか気付いていない驚きを指摘するほうが、人は共感する。「砂浜に埋めたもの」が、誰もが想定するものではなく「折れた翼」というところに歌がある。
啄木の有名な歌は、かなり強引だと思う。わざわざ訛りを聞きに人混みに行くよりも、たまたま停車場にいたときに訛りが聞こえてきて懐かしく思う、という状況のほうがよくあるだろう。でも啄木は、そこにたった一人しか気付くことがない虚構を立ち上げたのだ。