憂楽帳:故郷喪失
- 「故郷喪失」というと太宰治や石川啄木が思い浮かぶ。東京での苦闘をへた太宰は、36歳の時、久しぶりに津軽へ帰る。懐かしい乳母ら故郷の人々の温かさにつかのまの心の平安を得る。名作「津軽」の誕生だ。「ふるさとの訛(なまり)なつかし」と故郷を慕う啄木の歌も有名である。
- 福島原発周辺では「累積線量」「帰還困難区域」など殺伐とした言葉が飛び交う。太宰や啄木のような文学は生まれようがない。喜びや悲しみの感情は「シーベルト」の単位で計測できないのだから。【米本浩二】
(2011-12-20 毎日新聞>西部夕刊)