《関連イベントに参加しての私的レポート》
国際啄木学会「2011年夏のセミナー」2011年7月3日(日)明治大学
<研究発表 -2>
「啄木の推敲意識」大室精一氏
はじめに
『一握の砂』『悲しき玩具』における推敲の前後関係を再確認しながら、啄木の繊細な推敲意識の一面について報告したい。
【『一握の砂』の推敲意識】
(A-雑誌、新聞等、 B-『一握の砂』)
1 助詞一字の改変(十例ある)
A ある日のこと 室の障子をはりかへぬ その日はそれに 心なごみき (『スバル』明治43年11月号)
B ある日のこと/室の障子をはりかへぬ/その日はそれにて心なごみき ((『一握の砂』119)
雑誌が先なのではないかと推定した。
2 同一漢字の訓み改変(四例ある)
A このつぎの休日に一日(ひとひ)寝てみむと思ひすごしぬ 三年このかた(『スバル』明治43年11月号)
B この次の休日に一日(いちにち)寝てみむと/思ひすごしぬ/三年このかた(『一握の砂』116)
3 歌句の改変(十九例ある)
A はても見えぬ 真直の街を行くごとき 心を今日は 持ちえたるかな(『精神修養』明治43年12月号)
B はても見えぬ/真直の街をあゆむごとき/こころを今日は持ちえたるかな(『一握の砂』147)
明治43年の11月号どころか12月号も『一握の砂』のほうが推敲後だろう。
4 「句」から「行」へ(二例ある)
A 真白なる大根の根の肥ゆる頃 肥えて生れて やがて死にし児 (『スバル』明治43年12月号)
B 真白なる大根の根の肥ゆる頃/うまれて/やがて死にし児のあり(『一握の砂』546)
句の途中で改行している。そうするとどう考えてもAが推敲前、Bが後だろうということを考え続けた。推敲していくごとにまとまっていき、最後に『一握の砂』に編集を完了していったと考えた。すべての雑誌掲載歌が推敲前だと確認すれば、啄木の推敲意識は極めて単純になる。
『一握の砂』における推敲の法則
法則の一 推敲による定型からの離脱-1 「57577」から「字余り」へ
法則の二 推敲による定型からの離脱-2 「句」から「行」へ
法則の三 推敲を加えるたびに配列構成が完成していく
【『悲しき玩具』の推敲意識】
(略)
『悲しき玩具』における推敲の法則
法則の一 推敲による定型からの離脱-1 「57577」から「字余り」へ *「二句連合」の表現へ
法則の二 推敲による定型からの離脱-2 「句」から「行」へ *句の途中で行下げも
法則の三 推敲を加えるたびに配列構成が完成していく
法則の四 推敲による句読点の変化 「なし→読点→句点→諸符号(?!など)」
○ 現段階ではこのように考えている。まもなく発表が予定されている近藤典彦氏説とともにまた考えていきたい。
(国際啄木学会「2011年夏のセミナー」おわり)