〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

やや遠きものに思ひし/テロリストの悲しき心も - - 石川啄木

[ムシトリナデシコ]


詩歌の森へ:菱川善夫の著作集

  • 鋭い短歌批評で知られた菱川善夫が亡くなったのは2007年12月。長年の短歌評論を集めた『菱川善夫著作集』(全12巻、沖積舎)が刊行中のことだった。短歌批評という地味な分野だけにその継続が危ぶまれたが、2冊が無事、出版された。
  • かつて前衛短歌運動の支柱として活躍した菱川は、歌壇以外の広い文学的視野で、現代短歌のあるべき姿を探り、また、時代に呼応した短歌理論を展開した。
  • 今回の『近代歌人論』では、石川啄木を論じた第二章が読みどころ。テロの幕開けの「9・11」と、<やや遠きものに思ひし/テロリストの悲しき心も−−/近づく日のあり。>(『悲しき玩具』)と歌った啄木の、「時代閉塞の現状」の意味を解きほぐす。また、人を殺したくなり、物を壊したくなる啄木の「変な心」に注目した、「啄木の魅力−−危険な心の殺し方」の講演録は、現在の格差社会の不安心理につながる。(酒井佐忠=文芸ジャーナリスト)

(2011-06-26 毎日新聞>東京朝刊)