〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

望月善次〈『あこがれ』石川啄木〉13

[ムクゲ]


〈音読・現代語訳「あこがれ」石川啄木〉13 望月善次
森の追懐(もりのおもひで)
  師走も押し迫ったこたつでこの一年を懐旧する啄木。この春、啄木は東京における放浪により、健康を害して帰郷したのである。しばらく体力を回復した夏のころ、つえを突き、何度となく母校の裏のこの森に遊んだのである。
 
落(お)ち行(ゆ)く夏(なつ)の日(ひ)緑(みどり)の葉(は)かげ洩(も)れて
森路(もりぢ)に布(し)きたる村濃(むらご)の染分衣(そめわけぎぬ)、
涼風(すヾかぜ)わたれば夢(ゆめ)ともゆらぐ波(なみ)を
胸(むね)這(は)ふおもひの影(かげ)かと眺(なげ)め入(い)りて、
静夜(しづかよ)光明(ひかり)を恋(こ)ふ子(こ)が清歓(よろこび)をぞ、
……


〔現代語訳〕
  森の追懐(もりのおもひで)

落ちて行く夏の日は、緑の葉陰を洩れて
森の路に布いた、濃淡のあるまだらに染め分けられた衣に、
涼しい風が吹き渡ると、夢のように揺らぐ波を
胸を這う思いの影だろうかと、じっと眺めて、
静かな夜の光明を恋い慕う人の清い歓びを(知るのです。)、
……
    (明治三十六年十二月十四日稿)
(2010-08-26 盛岡タイムス)