【これは牛】
「リクガメの憂鬱
―博物学者と暮らしたカメの生活と意見」
地中海から船でイギリスに運ばれたリクガメが主人公。彼(?)はロンドン郊外の博物学者に飼われたが、ある日、逃げ出した。その日々をカメの目線で描く。
人間たちは(カメから見ると)いつも“出て”いる。人間の家は必要なとき、(カメのように)いつもそばにない。つつましい人間の家でさえ、大きすぎる。出世すると、さらに身体に合わない家に住む。
人間には甲羅が与えられてない。あの薄い皮膚では何も防げない。なんて効率の悪い生き物なんだ。生きるために必要なことをすべて自分でできる人間はひとりもいない。
『なるほど』『なるほど』の連続である。
訳者のあとがきに『吾輩は猫である』のカメ版とあったが、そんな感じもする。
飼い主はオスと思い込んでいたが、本人によればメスだそうだ。「人間は何も分かってない……」……。
小さいカメのイラストがページの下にずっと続いている。パラパラめくるとカメが進んだりひっくり返ったりする。
現在は少し荒れてしまったイギリスだが、200年以上前の田舎町の教会や、祭りや、煉瓦の道や、藁葺きの屋根を思いながらゆったりとした時間を過ごすのは悪くない。