〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

明治の文学作品中 一番感動したのは啄木日記 キーンさん


[河津桜]


啄木の面白い歌 読まれぬ悲しさ -本よみうり堂<読売新聞-

  • 〈いのちなき砂のかなしさよ さらさらと 握れば指のあひだより落つ〉松林と白砂で知られた三陸の名勝・高田松原岩手県陸前高田市)には、かつて旅行でこの地方を訪れた石川啄木の歌碑があった。それはチリ地震津波(1960年)と東日本大震災による津波で2度にわたり流された。たった1本流失を免れた「奇跡の一本松」の近くに3年前、歌碑が再建された。〈頬につたふ なみだのごはず 一握の砂を示しし人を忘れず〉
  • 大震災のあった2011年、「日本国民と共に何かをしよう」と決意し、日本国籍を取得した日本文化研究者ドナルド・キーンさん(93)は啄木を愛し、〈明治時代の文学作品中、私が読んだかぎり、私を一番感動させるのは、ほかならぬ石川啄木の日記である〉と記した。
  • 新刊の評伝『石川啄木』(新潮社)の刊行を機に記者会見したキーンさんは「醜いもの、恥ずかしいものも書いた啄木は、矛盾も多く、まさに現代人。今読んでも面白く、いい歌も多い」と語った。一転、〈三十年前に比べて、今や啄木はあまり読まれていない〉。背景として〈テレビなどの簡単に楽しめる娯楽が、本に取って代わった〉ことをあげる。
  • 〈高きより飛びおりるごとき心もて この一生を 終るすべなきか 啄木〉大きな満足を求める知的冒険は努力を要する。が、それは抜群に楽しいはずである。(編集委員 鵜飼哲夫)

(2016-03-25 読売新聞)

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