〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

啄木が「ありがたき」と詠んだふるさとの山が…


[スズカケと東京スカイツリー]


春の星こんなに人が死んだのか -熊本日日新聞-

  • 夏目漱石が熊本に来て今年は120年ですが、同じ年の1896(明治29)年には岩手県で詩人・宮沢賢治が生まれています。賢治が生まれた年には、2万人以上が犠牲になった明治三陸地震が起き、37歳で亡くなる1933(昭和8)年には約3000人が犠牲になった昭和三陸地震が起きています。賢治は東北の二つの大地震の間を生きたことになります。
  • <ふるさとの山に向ひて言ふことなし/ふるさとの山はありがたきかな> 歌人石川啄木岩手県に生まれたのが1886(明治19)年で、今年は生誕130年。啄木は1912(明治45)年に26歳で亡くなっていますが、明治三陸地震の時は9歳でした。
  • 啄木が「ありがたき」と詠んだふるさとの山が動き、賢治が愛した「イーハトーブ」の風景が切り裂かれた東日本大震災から5年。さまざまなデータがあります。原発事故を抱えた福島では、原発から避難して亡くなった人を含む震災関連死が2000人以上。地震津波の死者1604人を大きく上回ります。何より、人が住めない国土をつくりました。
  • 昨年は戦後70年でした。大震災が突きつけたものは、実は戦後の問題と幾つもの層で重なっています。原発が再稼働したからといって、問題が解決したわけではありません。ある意味、課題の先送りです。
  • まずは、忘れないこと。なかったことにはできないことがたくさんあります。<春の星こんなに人が死んだのか>。岩手県釜石市で高校の先生をしていた照井翠[みどり]さんの句です。

(2016-03-07 熊本日日新聞

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〈ふるさとの山に向ひて…〉石川啄木

小社会 -高知新聞-

  • 〈ふるさとの山に向ひて/言ふことなし/ふるさとの山はありがたきかな〉(石川啄木)。〈ふるさとは遠きにありて思ふもの/そして悲しくうたふもの〉(室生犀星)。古里に対する愛憎をうたった作家や歌人は数多い。
  • 日本人の心のどこかに、「故郷忘(ぼう)じ難し」という思いが潜んでいるのだろうか。その全てが「ふるさと」という言葉に感傷的に反応したわけでもあるまいが、それにしても「ふるさと納税」の急速な広がりには驚く。
  • 古里や好きな自治体に寄付の形で納税すれば、税金が軽減される。おまけに自治体からは返礼の特典付きとあって、寄付額は過去最高に。高知県でも奈半利町に昨年、13億円に迫る寄付があった。人口割りでは日本一と聞けば、まずは喜ばしい。
  • 高級和牛にマグロ、カニ…。豪華さを競う特典合戦は既に過熱気味。古里が「言ふことなし」になるか「悲しくうたふ」ものになるか、長い目で見ていきたい。

(2016-03-08 高知新聞

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