〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

いま石川啄木の評伝を書いている ドナルド・キーン


[ナンテン]


漱石 三四郎ふたたび)この年になって時代を脱却したね
 金子兜太×ドナルド・キーン

俳人金子兜太さん(95)と、日本文学研究者のドナルド・キーンさん(92)。ともに太平洋戦争を経験し、戦後は日本の文学に刺激を与えてきた。今年は戦後70年。漱石をはじめとする文学について、そして戦争について、語り合った。

  • キーン 私にとって、年上の方との対談は大変珍しいことです。
  • 金子 年だけは僕が先輩ですが、キーンさんを先生だと思っていますよ。あなたのように「源氏物語」から読み込み、三島由紀夫とも交友があったという米国出身の人はいません。キーンさんは、正岡子規明治天皇、そしていま石川啄木の評伝を書いている。明治から大正にかけて書きながら、なぜ夏目漱石はお書きにならないのだろうか。

冷静に考えてみたら、漱石日露戦争後の日本が気に入らなかったのだろう。…… 日本の近代化に疑問を持っていた、非常にややこしい男です。同時代の啄木とは違いますか。

  • キーン 漱石は過去を否定しませんでした。「草枕」では、能の世界を取り込み、過去の美しさをたたえている。一方、啄木は、評価するものは何もない、と過去を完全に否定しました。漱石は過去、現在、そして未来まで、複雑に考えていたと思います。

 ・ドナルド・キーンさん 文芸誌で「石川啄木」を連載中
(2015-01-03 朝日新聞

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焼け野原になる日本を啄木が考えもしなかったように……

風土計 岩手日報

  • 晩年の石川啄木には、正月の歌がいくつかある。気分の移りゆく様子が今に通じて面白い。
  • まずは有名な<何となく今年はよい事あるごとし元日の朝晴れて風無し>。高揚感あふれる元日から、気分は少しずつ下っていく。<正月の四日になりてあの人の年に一度の葉書も来にけり>。4日に届く年賀状を何やら気の抜けた思いで読む。
  • 103年前に26歳で早世した啄木は、20世紀の初めを駆け抜けた人だった。最晩年は病と闘いながら仕事に打ち込む。力尽きて没した2年後、第1次世界大戦が始まった。長生きしていたら二つの大戦を経験し、59歳で玉音放送を聴いたはずだ。
  • 戦後70年の今年、21世紀初めの15年が駆け抜けていく。この間に震災はあったが、身近な戦火はなかった。でも焼け野原になる日本を啄木が考えもしなかったように、これから先は誰にも分からない。

(2015-01-06 岩手日報

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