◎本よみうり堂 書評
評・松山巖(評論家・作家)
『絵のように 明治文学と美術』 前田恭二著
群衆劇を読む面白さ
- 各分野で日本近代の再考がなされているが、著者はユニークな視点で文学と美術の近代を解読した。一言でいえば明治の作家たちが美術をどう捉え、考えたか、そこにこだわり、詳細に調べた。明治であれ、美術は既に芸術として社会的な位置を獲得していたからだ。
- 第一章は山田美妙作『蝴蝶』の口絵に若い女のヌードが描かれ、新聞雑誌で論争となった騒ぎを追う。まず新聞が春画と批判し、美妙が反論。すると新聞の投稿欄で批判が続き、鴎外も茶化して投稿し、自然主義を目指す内田魯庵は批判、尾崎紅葉は擁護、と双方とも譲らない。
- 日清日露戦争を経て、国策として古寺社や宝物の調査や美校設置などの動きも重ね、文学者と美術家がナショナリズムに反応した意識も調べ、終章は大逆事件に最も鋭く反応した啄木の帰趨で締める。
まえだ・きょうじ=読売新聞文化部次長。
(2014-09-29 読売新聞)
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