[ヒイラギナンテン]
吉本隆明さん死去:晩年まで独自の思考を重ねる
- 戦後最大の思想家、吉本隆明さんが亡くなった。思想界の「巨星」にふさわしい87歳での大往生は、「戦後」と呼ばれた時代の完全な終わりを告げるものといえる。
- 晩年は糖尿病による視力の衰えに悩まされたが、年に数冊の本を出し続け、思考の健在を示していた。2011年12月には石川啄木没後100年をめぐる毎日新聞の取材に応じたが、その後、体調を崩した。12年1月刊行の「吉本隆明が語る親鸞」が事実上の最後の著作となった。【大井浩一】
(2012-03-16 毎日新聞)
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● 体調を崩す直前の取材による記事──毎日新聞 2012年1月5日付
(啄木文学の評価や魅力を論ずる)
詩人・評論家、吉本隆明さん
やさしい言葉で、生活の中の隠れた心理や思想を的確に摘出したことが、今も啄木の人気が衰えない理由ではないでしょうか。
<友がみなわれよりえらく見ゆる日よ/花を買ひ来て/妻としたしむ>
<こころよく/人を讃(ほ)めてみたくなりにけり/利己の心に倦(う)めるさびしさ>(いずれも『一握の砂』)
こうした生活の中の細々した感情や社会の見方を歌った作品は、ほとんどが一級品です。歌人の中には異論もあるでしょうが、「詩人」という概念を包括的な意味で用いるなら、間違いなく第一級の詩人といえます。…これだけの表現ができる詩人はそんなに多くはいません。日本の近代の詩人では、高村光太郎や萩原朔太郎、斎藤茂吉らと並んで5本の指に入る一人だと思います。
啄木の息 2012-01-06