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『啄木 我を愛する歌: 発想と表現』
著者:太田 登 出版社:八木書店 装丁:単行本(392ページ)発売日:20
なぜ石川啄木の短歌は100年の時を経てなお現代人を魅了しつづけるのか。歌集『一握の砂』の主題を形成する「我を愛する歌」151首を新たに評釈し、その魅力に迫る。
さまざまな隔たりを超え読みつがれている啄木の短歌
いわゆる教科書短歌のなかでも、石川啄木の短歌は教育現場でもっとも広く知られています。
不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて
空に吸はれし
十五の心
やはらかに柳あをめる
北上の岸辺目に見ゆ
泣けとごとくに
このような多感な青春やつきることのない望郷への思いが、希望や不安に胸をときめかす年頃の柔らかい心に響くからでしょう。いまでは歌人としてすぐれた業績をあげている人のなかでも、短歌に関心を持ちはじめたきっかけが啄木短歌であった、という話をよく耳にします。
それはおそらく啄木短歌には技巧や知識をひけらかすようなところが感じられないからだと思います。心にうかぶ思いを素直に表現するような啄木短歌には、年齢や性差はもとより時代や地域や民族などさまざまな隔たりをこえて、ともにわかり合える魅力があります。そして啄木のように、短歌によって自分自身の思いをそのままに表現してみたいという気持ちになるのでしょう。そうした啄木短歌の魅力を凝縮したのが、1910(明治43)年に出版された『一握の砂』という歌集です。いまから100年以上もまえの短歌がいまもなお広く読みつがれていることに驚かざるをえません。
本書は啄木短歌の魅力の源泉ともいうべき『一握の砂』の主題を形成する第1章「我を愛する歌」151首を1首ごとに評釈したものです。
珠玉の短編小説を読むような醍醐味
東海の小島の磯の白砂に
われ泣きぬれて
蟹とたはむる
やとばかり
桂首相に手とられし夢みて覚めぬ
秋の夜の二時
[書き手]太田登(おおたのぼる) 天理大学名誉教授
(2022-012-14 ALL REVIEWS)
『啄木 我を愛する歌: 発想と表現』(八木書店) - 著者:太田 登 - 太田 登による自著解説 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS