- ここはやはり、日野原重明さんの思い出からはじめよう。
- 10年ほど前だったと思う。夜8時ごろ東京駅で 新幹線にのった。一人の老人が重そうな革かばんを両手にさげて通路を歩いてきた。隣の空席に腰をおろすと、一方のかばんを前に置き、もう一方をひざの上に横たえて、中から書類を出した。これから執筆をはじめようというとき、それが日野原さんであることに気づき、あわてて挨拶を交わしたのだった。
- すると先生は「明日、京都で学会があり、その冒頭挨拶の文章を用意しなければならない」といわれて、仕事にかかりはじめた。横文字だった。呆気(あっけ)にとられた私は、その付き添いなしの、天晴(あっぱ)れひとり旅の姿に息をのまれ、全身シャワーを浴びせられたような気分になったことを覚えている。
- その日野原さんが亡くなる前、俳句集を出版されていた。タイトルが『10月4日 104歳に 104句』(ブックマン社)、帯には「魂の俳句集」 とあった。開巻第一頁の第一句目をみて、私は目を見張った。
百三歳
おばけでなくて
ほんものだよ