〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

 啄木は「歌鉄」だろうか … 鉄道を何より愛した


[新幹線 東京〜新函館北斗]


10月14日は「鉄道の日」 [岩手日報(広告)]
 人の思いを乗せて レールの上をひた走る

  • 歌人、そして詩人として多くの作品を世に生み出してきた石川啄木。啄木も鉄道の魅力にのめりこんだ一人であり、事あるごとに鉄道を利用しては県内外のさまざまな場所を訪れ作品をしたためた。
  • 啄木の代表作でもある「一握の砂」、そして「悲しき玩具」。この 2 作品の中だけでも、「電車」「汽車」「駅」などといった鉄道に関連する語を含む短歌は実に38首に及ぶ。

   何となく汽車に乗りたく思ひしのみ
   汽車を下りしに
   ゆくところなし

  • これは「一握の砂」に収められた一首であり、汽車に乗りたくてなんとなく乗ったが、降りた後でさてどこへ行こうか、と思い惑う様子を描いた作品である。この短歌からは啄木が汽車を楽しみ、同時に非常に強い憧れを抱く対象でもあったことをうかがい知ることができる。

   こみ合へる電車の隅に
   ちぢこまる
   ゆふべゆふべの我のいとしさ

  • 同じく「一握の砂」の作品だが、これはおそらく東京における帰宅ラッシュ時の電車に乗り込んだときのことを回想して作ったと推察されるものだ。仕事に疲れて帰る際に満員電車に揺られながら端の方でしみじみと自分の愛しさを感じている歌だが、現代のサラリーマンの中でも啄木と同じような気持ちで揺られている人は少なくないだろう。
  • 鉄道の存在は彼の作品に大きな影響を与え、数々の優れた歌を世に残した。現代風に言えば啄木は鉄道マニアの一人だったのかもしれない。「乗り鉄」「撮り鉄」などいろいろな嗜好が存在するが、啄木を形容するならば「歌鉄」だろうか。それほど啄木は鉄道と非常に密接に関わり、利用し、そして何より愛していた。

(2017-10-06 岩手日報(広告))