「風土計」 【岩手日報】
- 歌会始の選者を務めた岡井隆さんは、盛岡を訪れた際「不来方(こずかた)の城あとに立ち老翁が十五の君をおもひみるとき」と石川啄木の有名な短歌を踏まえて詠んだ。80歳を過ぎた岡井さんと20代で世を去った啄木。時を超えて歌壇の重鎮と若き天才の魂が呼応する。歌人の故小高賢さんは啄木らを挙げて、近代短歌を恋愛と挽歌(ばんか)を中核とした若者の文芸だったと著書「老いの歌」に記した。
- 平均寿命が現在は男女ともに80代となった。老いの表現手段として短歌が威力を発揮していると小高さん。自らの来し方行く末を詠み味わうことは、老いそのものを知ることであると勧める。
- 「切り捨てられる時間や存在ではない豊かな可能性もそこにある。『老い』はそういう無限に広がる新しい場所なのである」と。老いへの不安は、広い未知の世界の入り口に立つことの裏返しかもしれない。きょうは敬老の日。