〖 啄木の息 〗

石川啄木の魅力を追い 息づかいに触れてみたい

漢字トリビア「砂」の成り立ち物語

  • 「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。「砂」に込められた物語を紹介します。
  • 「砂」という漢字は「石」に「少ない」という字を書きます。「少ない」という字は、小さな貝を紐で綴った形を描いた象形文字。「砂」という漢字は、その貝がらほどの大きさの石を意味しています。
  • 「石をもて追わるるごとく」故郷を後にして、北海道・函館に降り立った石川啄木。満たされぬ心を抱えた彼は、津軽海峡を望む大森浜をたびたび訪れました。砂山で腹ばいになって初恋のいたみを遠く想い、涙を吸った砂で玉をつくり、砂に打ち寄せられた流木に語りかける。それは、啄木が己と向き合い、我を愛する赦しのひとときでした。こうして、かの有名な歌集『一握の砂』が生まれたのです。

  いのちなき砂のかなしさよ
  さらさらと
  握れば指のあいだより落つ

  • 誰もが一度はやってみたことのある戯れに、人は、何を重ねてみるのでしょう。無常に過ぎゆく時間、報われぬ想い、はかなく消えた夢。何度も砂を握り締め、くりかえし砂を落としてゆくうちに、目の前には小さな砂の山ができあがる。砂はただこぼれ落ちたのではなく、積み重なって新たな形を築き上げているのです。
  • 心おきなく砂にまみれた石川啄木は、『一握の砂』にこんな一首も残しています。

  大といふ字を百あまり
  砂に書き
  死ぬことをやめて帰り来れり

  • 漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。その想いを受けとって、感じてみたら……、ほら、今日一日が違って見えるはず。

TOKYO FMの番組「感じて、漢字の世界」2016年7月16日放送より)